委員プロファイリング | 日本版AAAS設立準備委員会 https://jaas.group 日本の科学をもっと元気に! Tue, 22 Jun 2021 09:29:02 +0000 en-US hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.9.2 https://i0.wp.com/jaas.group/wp-content/uploads/2020/11/cropped-fav.png?fit=32%2C32&ssl=1 委員プロファイリング | 日本版AAAS設立準備委員会 https://jaas.group 32 32 【委員プロファイリング・3】学術の現場の人達が集い、みんなの思いを実現させる組織を作りたい/馬場基彰氏インタビュー https://jaas.group/memberprof-motoakibamba/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=memberprof-motoakibamba Mon, 21 Jun 2021 11:58:40 +0000 https://jaas.group/?p=4589 日本版AAAS設立準備委員会のメンバーが、自ら問題意識や活動への思いを紹介するインタビューシリーズです。その第3弾は、二人いる委員長の一人で、初期から会の立ち上げを牽引する馬場基彰(ばんば・もとあき)さんを紹介します。


馬場基彰(ばんば・もとあき)
日本版AAAS設立準備委員会 委員長
京都大学 白眉センター 特定准教授

物理学、特に電磁波(光)の理論を研究している。大阪大学で博士の学位を取得後、日本とフランスで複数のポスドクポジションを経験した後、JSTのプロジェクト「さきがけ」研究者を経て2021年から現職。学術に関わるあらゆる人が、自分の抱く思いや問題意識を生かし当事者として活動できる場を作りたいという思いが声掛け人となるきっかけ。2019年に日本版AAAS設立につながる活動を開始。

「学術研究でどうしてこんなシステムがまかり通るんだ?」。答えを求める活動が、思わぬ方向へ

日本版AAAS設立準備につながる活動を始めたのは2018年秋です。この頃の私は大学への就職活動をしていましたが、その面接に呼ばれては「不採用」という通知を受け取ることの繰り返しでした。それまで疑問も抱かず研究の道を進んでいた私が、そういう状況の中で「このまま大学で研究者を続けるべきかどうか」と考え始めました。

学生、そしてフランスと日本でポスドクをしていた頃は、自身の好奇心に基づいて研究をするだけでした。日本の大学に任期付きの職を得て、民間企業の方と接する機会が増えたり、他の研究者との考えの違いを感じたりしているうちに、研究者としての社会における自分の役割を見つめ直すようになりました。そして、社会と学術研究の関係について様々な疑問を抱いたのです。

「アカデミアでは、どうしてこんな奇妙なシステムがまかり通っているのだろう?」。私の抱いた大きな疑問はこれでした。科学技術と人文社会学などを含む学術研究コミュニティがいわゆるアカデミアです。日本のアカデミアでのいろいろな面、たとえば大学教員と学生の関係、社会への研究成果の発信方法、メディアでの科学の扱われ方、研究成果や研究者をアカデミア内部で評価する基準、社会における大学の役割とその評価…、これらのどれをとっても「こんなシステムがこれからも社会に受け入れられるのか?」という疑問が考えれば考えるほど自分の中に膨らんでいきました。

このために、時間のあるときには、日本の学術研究が抱える課題について調べるようになりました。たまたま、元参議院議員で教育や学術に関心のある畑恵さんのブログで、自民党の「科学技術基本問題小委員会」の活動を知りました。「自民党が基礎研究や若手研究者に関心を持っている」とあります。それまで、まわりの研究者からは「官僚や政治家は(科学研究について)何も分かっていない」という愚痴しか聞いたことがなく、意外に感じました。その日の夜に畑さんにこんなメールを送ってみました。「若手研究者の問題について議論するのならば、卓越研究員事業の応募者アンケートの結果もぜひ参考にしてほしい」という内容です。すると畑さんから返信がありました。そこには「学術研究の制度をより良いものにしていくために、当事者である現場の研究者が上げた声を沢山集めて政治家にちゃんと届けてほしい」という政治家から研究者への思いが綴られていました。

「日本の科学を元気にしたい」仲間たちが芋づる式に繋がった

「研究者の声を沢山集める」といっても、一介の研究者である私はどこから始めていいのかわかりません。そこで、すでに科学コミュニティ活動を行っている人たちから協力者を集めようと考えました。最初に声をかけたのがacademist(研究を支援するクラウドファンディング・プラットフォーム) を運営する柴藤亮介さんでした。すぐにScience Talks(科学コミュニティの対話活動を推進するネットメディア) を運営する湯浅誠さんと加納愛さんを紹介してもらい話しているうちに「一緒になにができるか考えよう」となりました。

さらに、日本の科学を考える活動「ガチ議論」で研究者の声を政策側に届けるという趣旨で記事を書かれていた田中智之さんを発見し、「研究者の声ってどうやって集めればよいものですか?」とメールで相談しました。すると田中さんは、「神経科学者SNS」や「ガチ議論」で研究者の意見集約活動を長年行っていた宮川剛さんを紹介してくれました。また、統計物理学のメーリングリストの情報から、日本学術会議の若手アカデミーと、その代表の九州大学の岸村顕広さんの存在を知りました。きっと関心を持ってもらえるにちがいないと、岸村さんに会いに行きました。これまでの経緯を説明して相談したところ、若手アカデミーのメンバーである新福洋子さんや、岩崎渉さん、川口慎介さんを紹介してくれました。

こうして知り合った人々の活動は、それまでの私の研究者人生には全く関わりのないものでした。それなのに、自分がたまたま抱いた疑問について、状況を調べ、解決のために手を動かし、同じ疑問を持つ人を訪ね、思いをぶつけているうちに、芋づる式に人が集まってきました。そうした人たちと、日本における学術と政治・社会の関係について相談していると、日本の学術研究が抱える問題に本格的に取り組むために、日本版AAASの設立を目指すべきだとまとまっていきました。そこで、2019年8月にそのような会の設立に関心を持つ人々と初の意見交換会を開きました。その小さな会が、今の「日本版AAAS設立準備委員会」へとつながったのです。

学術への思いや疑問を抱いた誰もが、仲間を見つけて行動を起こせる場を作りたい

私がこの会を通じて実現したいのは、学術と社会について思いや疑問を抱いた人が誰でも、その解決のために、仲間を見つけて行動できる場所を作ることです。数年前、自分が疑問を感じたときにはそういう場がなかった。「ないのなら作りましょう」というわけです。

私自身が最初に抱いた疑問は「大学でポジションを得ようと応募した研究者の中から選考するプロセスは、本当に社会のためになっているのか?」でした。その疑問を当時私の回りにいた研究者にぶつけても、「そういうものなんだ」と疑問を棚上げしたり、「おかしいよね」と共感を示したりするばかりで、仕組みを変える行動に移そうする人は見つかりませんでした。研究環境、制度、学術と社会との関係などについて問題を感じれば、誰でもいつでも建設的な議論を通じてアイデアを昇華させ、学術に対する思いや理想を実現する行動を起こせる環境を、「日本版AAAS」という枠組みで作りたいのです。

学術の研究や支援、教育、報道などに関わる多くの人達が、各自の仕事や個人活動などを通じて学術を振興し、それによって人類の幸せや世界の持続的な繁栄に貢献していると、私は信じています。その反面、今の日本の研究環境は研究者が人類や世界のためという純粋な気持ちを持って研究に邁進できる状態ではないと、少なくとも私自身は、感じています。同じように感じている研究者は他にもきっといることでしょう。日本版AAASで私が実現したいことは、私自身が若手研究者を代表して活動することでも、研究者の利益団体としての大きな影響力を獲得することでもありません。大事なのは、学術に関して社会に貢献している一人一人が、各自が抱く思いや理想に基づいて行動できる環境を作ることなのです。

物理学の研究は、分業と協力で成り立つチームワークの世界

私の専門は物理学で、特に電磁波(光といってもいい)の理論的研究をしています。電磁波は、電場と磁場が絡みながら空間的・時間的に振動して伝搬していく波です。Wi-Fiに使われる電波も、電子レンジで使われるマイクロ波も、私たち人間や生物が放出している赤外線も、日焼けを引き起こす紫外線も、レントゲン撮影で使われるX線も、放射性物質から出るガンマ線も、全てが電磁波です。

目に見える電磁波を「光」といいます。電場と磁場が振動している様子は見えませんが、それらが目に入ってくると光として感知されます。炎は赤色や青色で、太陽は白っぽく光っています。熱によって電子などの粒子が振動すれば、そのまわりの電場も振動し出し、結果、電磁波が作られます。もしも温度を変えるだけで「振動しない電場と磁場」を作り出せたら、「熱いから光る」という「普通」を超えて、熱そのものから光を直接発生させられれば、人類のエネルギー消費改善につながるかもしれない、というのが私の物理学研究の夢です。

いわゆる磁石は、電磁波や光と同じようにまわりに磁場を生じさせますが、振動していません。振動している電磁波をどうやったら振動しない磁場や電場にできるのか? これは1973年に提唱された問題ですが、いまだにどうすれば実現できるのかわかっていません。私自身がこのテーマに取り組んでまだ10年経っていませんが、実現できる似たような現象があるということが、他の研究者との協力で、分かってきました。そんな電磁場現象が実際に起こっている物質も実験的に確認してきました。今後も、電磁波が静止した電場と磁場になる現象を実際に見つけていきたいと思います。

そんな物理学の研究は、様々な興味を持つ複数の研究者が集まって、それぞれに協力し合うことで成り立っているチームワークの世界です。理論的に研究する人と実験的に研究する人に分かれていますが、私はいわゆる紙とペンで(最近はタブレットですが)解析する「理論屋」です。私が研究した理論的結果を実験する人と協力して実証したり、思いがけず見つかった不思議な現象を理論的に解析したりしています。それと同じように、日本版AAASも、それぞれのメンバーが興味や得意分野を持ち寄って協力し合って、今まで世の中に存在しなかった社会的な現象を新しく生み出せればよいと思います。

準備委員会ができるまでに感じた、人をまとめることの難しさ

この会の活動が軌道に乗り始めたと思えるようになったのは、ほんの最近のことです。準備委員会の正式立ち上げに至るまでにはいろいろな苦労がありました。

最初に小さな有志グループで開始した私たちは、2019年12月に「日本版AAASの趣旨(暫定版)」と「概要案」を皆で作成し、それらを元に新しいメンバーを集め始めました。私もインターネットで積極的に情報発信をしている同世代の研究者を見つけては直接連絡し、「議論に加わってくれないか」と次々に声をかけました。

2020年2月、新しく活動に賛同してくれたメンバーを交えて3 度目の意見交換会を開催しました。いよいよ日本版AAAS設立に向けて帆を上げて活動を進めようとしたのですが、なにぶん30〜40代で、仕事も私生活も忙しいメンバーが多く(Zoomミーティングをしていると、よく子どもの声が入ってきます)、議論がなかなか進まない時期が半年ほど続きました。「これではいつまでも会が立ち上がらない!」と、2020年7月から集まれるメンバーで定期的ミーティングを開催するようにして、それぞれの活動の必要性を皆で確認するようになって、やっと活動が進むようになりました。

準備委員会の立ち上げが決まり、委員長になったのは2020 年の11月です。もともと声かけ人として全体の議論の取りまとめをしていた流れで、委員長を引き受けることになりました。そこでは、組織を支えて活動を前に進めお互いにバックアップとなる複数のリーダーが必要です。ジェンダーバランスを考え、男女2名の共同委員長体制で進めようということになりました。積極的にミーティングに参加されていた小野悠さんに共同委員長を打診し、11月の信任投票で私と小野さんが委員長になりました。以来、数ヶ月間二人で日々頭を悩ませながら、日本版AAAS設立や準備委員会の発足のために何が必要かを、皆で知恵を絞って協議することを進めてきているという感じです。小野さんには、組織作りにおいて私が苦手な面を率先してサポートしてもらっていて本当に助かっています。

2020年12月のβ版としての公開以降、また2021年2月の正式発足以降、賛同するだけでなく、活動に積極的に参加し貢献したいという方々から多数連絡をいただき、2021年はこれまで以上に活発に様々な活動を進めていけると感じています。

多様な人々の希望を包含する、緩くて柔軟な組織を作るために

日本版AAAS設立準備委員会のメンバーとその思いは多様です。全員が一つの目的に向かって一丸となって活動しているという性質の組織ではありません。それは、課題でもあり、この会のユニークなところでもあります。「日本の学術の現状を変え、より良いものにしたい」というモチベーションではメンバーは繋がっていますが、それぞれの思いや背景、やりたいことや問題意識は多種多様です。共通する思いと多様な問題意識、その両方を大事にする組織として緩く広く人々を結びつけていける旗を掲げるとすれば「日本版AAAS設立」しかありえなかった、というのがここまでの私の実感です。

委員長としての私の仕事は、「こんな組織があったら、きっと今までできなかったこんなことが実現できるに違いない」という希望を抱く、それぞれが異なるベクトルを持ったメンバーを取りまとめ、その一人一人の夢をなるべく多く包含できる「日本版AAAS」を設立するための活動を少しでも前に進めることです。

私たちが会の使命として掲げる「学術振興のための対話の促進」は、非常に裾野の広い活動で、全てが手探りのスタートです。だからこそ、私たちは、メンバー各自の思いを無理に一致させようとしたり足並みを揃えることを促したりはしません。各自がその時々の自分の状況に応じてどれだけコミットするかを自分で決め、好きなように活動に加わってもらえばよいというスタンスで運営してきました。ありがたいことに、新しい委員がどんどん増えて、日本版AAAS設立活動がより大規模に進み始めていることを実感しています。この種の団体活動に共通する課題ですが、定期的に新しいメンバーが古いメンバーと入れ替わることで、新陳代謝が自然と起きる組織にしていきたいとも思っています。

この活動の楽しいところは、なんと言っても色んな人と知り合い、語り合えることです。研究しているだけでは知り合えないような人達と出会えます。日本版AAAS 設立準備委員会はまだ始まったばかりです。この活動をいま止めたら、日本や世界の学術・社会には何の影響も残らないでしょう。残らないどころか、私自身には研究と家族との時間、睡眠時間を削ったという悪影響しかまだ起きていません(笑)。私たちのこの活動がいつか、目に見える形で成果を上げることができると信じています。いつになるかは分かりませんが、そのときには必ず、自分と社会に大きなプラスになっているはずです。

学術の世界のみならず、日本社会の「対話不足」を解消するイベント目指す

日本版AAASが立ち上がったら、まずやりたいのは学術と政治についての対話イベントです。現場の研究者が政策担当者と対話できる場です。現場の研究者は科学技術政策や学術振興制度がどのように整備されているかよく知らないし、一方で政策担当者は研究の現場について十分に知らないのです。お互いの状況を知らないままに一方通行で考えを伝えている思っている状況が続いているのではと感じています。この「対話不足」を多くの人が感じているということさえ、この会を通じて知りました。アカデミア内での対話、アカデミアと社会との対話、学術に関心のない人との対話、そんな対話のすべてが不足しています。もしかしたら、学術に限らず、社会全体で対話が不足していることの一端を示しているのかもしれません。

手始めに、まずは今秋の正式立ち上げに向けて、日本の学術がどのような課題を抱えているのか、この会の趣旨に賛同するかどうかにかかわらず、社会からの意見を広く募集して対話するイベントを定期的に開催していく予定です。また、これまで個人的な活動をきっかけとして研究の制度改善に影響を与えてきた人たちの事例を語り合い、一人の思いからでも何かを変えることができると参加者が実感する機会を作りたいと考えています。そんなイベントを通じて、学術に関わる人が誰でも行動を起こせるような雰囲気をこのコミュニティに醸造していきたいのです。

メンバーの中には、市民を巻き込むシチズンサイエンス、だれでも触れることのできるオープンサイエンスを推進したい、あるいは科学を市民に伝えて一緒に科学を発展させる活動をしたいなど、様々な思いを持つメンバーが沢山います。一人一人のメンバーがやりたいことをお互いが助け合い、日本版AAASという枠組みの中でできることを模索して、実現していけるような環境を作りましょう。

これから賛同者になる人や、活動に興味を持ってくれる人へ

日本版AAASや設立準備委員会は、皆さんが自身の思いや問題意識に基づいて行動することを後押しする存在(枠組み)です。皆さんのために私たちが活動するわけではなく、自分自身が活動に参加することで、自らが抱く思いの実現や問題意識の解消に向けて行動してください。学術に関するものであれば、私を含め同じ思いを抱いている人が会の中に必ず見つかります。思いを同じくする人と協力し、できる範囲で活動していってください。

このような活動に割くことの出来る時間や労力、また思いや問題意識は、人それぞれ異なるでしょう。賛同者として活動を見守ってくれるだけでも十分です。関心のあるイベントが見つかった際に、参加していただければ結構です。意見を頂くだけでもありがたいのです。ただ応援していただくだけでも励みになります。まだまだ未知数のことが多い会ですが、これからもぜひ見守ってください。

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【委員プロファイリング・2】日本版AAASはまちづくりのようなもの〜垣根のない、持続的な科学のための組織を作るために/小野悠氏インタビュー https://jaas.group/memberprof-harukaono/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=memberprof-harukaono Mon, 08 Mar 2021 09:23:28 +0000 https://jaas.group/?p=4462 日本版AAAS設立準備委員会のメンバーが問題意識や活動への思いを紹介するインタビューシリーズ、第2弾は共同委員長で、組織作りにおいて準備委員会の屋台骨を担う、小野悠(おの・はるか)さんをご紹介します。


小野悠(おの・はるか)
日本版AAAS設立準備委員会 委員長
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 講師

都市工学研究者。学生時代にアフリカ、アジア、南米など約70カ国を旅し、博士課程在学中にはナイロビのスラムで暮らす。アフリカではダカール(セネガル)、キガリ(ルワンダ)、ナイロビ(ケニア)、ルサカ(ザンビア)、南アジアではインド、さらに日本の様々な地方都市を拠点にして、都市の原理を解明する研究と持続的なまちづくりの実践に携わる。その経験を生かし、日本版AAAS設立準備委員会では、人々の特性を生かした組織作りに手腕を振るう。

「小野さん委員長やる?」「うん、やろっか?」

日本版AAAS設立準備委員会に関わるようになったのは2019年の末ごろでした。まだ「委員会」という具体的な形もなくて、有志で設立の可能性を話し合っていたころですね。日本学術会議の若手アカデミーで、初期の頃からすでに活動に携わっていた岩崎渉さんに声をかけてもらったのが関わったきっかけです。「社会との対話」を大切にするという理念を掲げる方向性に魅力を感じて参加してみようと思いました。

委員長になったのはある意味、偶然です。初期に集まったメンバー同士で「どんな構造の組織にするべきか?」についてZoomで何度も打ち合わせしていた頃だと思います。私は出られる会議にはなるべく参加するようにして意見を言っていました。2020年10月のミーティングで「委員会を立ち上げるんだから、そろそろ委員長を決めよう」ということになり、その会議に出ていた私が、「小野さんやる?」と誰かに聞かれて、「うん、やろっか?」という返事をした流れで、委員長に立候補することになりました。その後、意見交換の場として使っているSlackで投票が行われ、正式に委員長ということになりました。

世界中の国と地域で都市工学研究に携わる小野さん

委員長の活動として、これまでに地域でまちづくりに関わってきた都市工学研究者経験を活かして、法人化までのロードマップをつくったり、本格的な活動に向けた組織体制を整備したり、ルールづくりに取り組んだり、と力を入れてきました。

この委員会のメンバーはとても多様です。それぞれの人がいい意味で尖っている分、意見をまとめるのは簡単ではありません。小さなことでも活発に納得するまで話し合って決めています。大変ですが、これまでそうやってひとつずつ問題をクリアし、みんなで丁寧に丁寧に、意思決定を積み上げてこれたという事実は、かけがえのないことだと思っています。

この活動が動き出してすぐに新型コロナウイルスの感染拡大があり、そのためミーティングはずっとオンラインでの開催のみとなっています。大部分のメンバーはお互いに直接会ったことがなく、人間関係というようなものも温まっていないようなところから、委員会づくりは始まりました。手探りでやってきて、徐々にですが、多様性の中に共通の価値観を見出しつつあるという手応えはあります。

都市工学研究の方法論は、準備委員会の運営に通ずる

「委員長やる?」と言われて「やろっか?」とすぐに返事したのには、もう一つ理由がありました。

この会には、経験や人脈が豊かで意欲と行動力をもった人たちが集まっています。その中で「わたしには何ができるんだろう?」と自問したとき、自分の強みは「組織作り」そのものと考えたのです。都市工学の研究者として、これまでアフリカの国々、インド、日本国内の様々な都市の地域づくりプロジェクトに関わり、理想を描きながらゼロから組織を組み立てる仕事をしてきました。その中で、多種多様で様々な利害を持つ人々とまとまって一緒に仕事をする方法を学んできました。

アフリカでのフィールドワークにて、現地の人々との対話

都市工学は自然科学と人文・社会科学の両方の知見をつかって新しい社会システムを構築する学問です。私の研究では、都市化が急速に進むアフリカやインドのインフォーマル市街地という、都市計画の枠外で形成されてしまう市街地を対象に、いかに空間的・社会的・経済的に豊かな環境をそこに形成しうるかということを考えてきました。また、人口減少・高齢化が進む日本の地方都市では、地域の多様なステークホルダーとの連携による地域活性化にも関わっています。市民や行政、企業の方たちと一緒に、地域を元気にする仕組みやプログラムを考える専門家として実践しています。

地域社会の様々なステークホルダーの役割を理解する

地域の多様な主体が連携し、ボトムアップでものごとに取り組むというやり方は、科学を支える人が誰でも参加できる、対話を大切にする日本版AAASの理念と共通する部分がかなりあります。方向性が異なり、相入れないように見えるメンバー間に共通点を見出し、一人一人が持っている強みを適材適所で生かしながら、大きな共通の目標に向かえるような環境づくりに、自分の経験を生かして貢献できたら素晴らしいと思ったのです。

市民と科学者の距離を埋める役割を担う、魅力的な組織の実現へ

日本の科学や科学政策については様々な問題がありますが、共通する原因のひとつに「市民」と「科学者」の距離が離れていることがあると思います。社会と科学は切っても切り離せない関係にありますが、その事実を市民も科学者自身も十分に理解できていない気がしています。科学者だけでなく、産業界や行政関係者、市民と、科学にさまざまなかたちで関わる人たちが当事者として参加できれば、様々な視点・アプローチから社会と科学の関係、科学をめぐる環境をより良くすることができるはずです。

その取っ掛かりとして、まずはこの会を「何か面白そうなことをやっている、魅力的な人たちが集まっているところ」と思ってもらえるような場にしたいと思っています。様々な形で科学の研究に携わっている人々は、日々、自分の生活や仕事だけで一杯いっぱいです。だからこそ、どんなに忙しくても面白いから参加したい、と思ってもらえるような魅力的な組織を目指しています。

誰もが参加し貢献できる「ワーキンググループ」という新しいしかけ

「日本の科学をもっと元気に!」という主張を実現するため、具体的なテーマを持って活動を進めていく場として、委員会の中に「ワーキンググループ」というしかけを作りました。委員それぞれが異なる関心や問題意識、専門性を持っています。そういう一人一人の思いや強みを生かして自然発生的に活動が生まれ、会の運営理念を共有しながらも自律的かつ裁量をもって展開していくような組織を作りたいと思っています。その推進力になるのが、ワーキンググループの活動です。「これをやりたい!」という具体的なアイデアを持った人が、科学の振興に何か少しでも貢献したいという想いをもった人と結びつき、一緒に活動することで、様々なコラボレーションが生まれることを期待しています。

委員長としての活動とは別に、私自身がこの会を通じてやりたいこともたくさんあります。たとえば、私は今、豊橋で地域のまちづくりに関わっています。そこでは、市民、学生、企業で働くサラリーマン、自治体職員、議員など地域を支える様々な人と関わる機会があるので、そうした人たちとも一緒に、科学をテーマに地域の課題解決や将来像を語り合う機会をつくってみたいと思っています。

地域での活動経験を生かし、誰もが参加できるコミュニティ作りを考える

また、「科学者見える化プロジェクト」もやってみたいことです。わたし自身研究者ですが、他の研究者が普段どんなことをしているのか、実はほとんど知りません。研究者というと、一般の人は、研究室にこもって研究をしたり、学生に授業をしたりというくらいのイメージしか持っていないんじゃないでしょうか? 実際には、地域に出ていろいろな活動をしている研究者、映像や書籍の作成に関わっている研究者、政策策定に深く関係している研究者など、多様なことをやっている人たちなのです。そんな科学者が担っている「多様な役割」を見える化して、社会により貢献できるような仕組みを作ってみたいと思います。

日本版AAASがなくてもできることかもしれませんが、ここで同じ想いをもつ人と一緒にアイデアやリソースを出し合えば、そんなことがもっと効果的に行えると期待しています。また、その活動をフィードバックして次の活動につなげ、新たな活動に展開することもできるはずです。

「科学者コミュニティ」ではなく「科学コミュニティ」を作りたい

わたしたちは「科学者コミュニティ」ではなく「科学コミュニティ」を目指しています。科学の当事者は科学者だけではありません。学校で科学を教える先生、科学をつかってサービスや技術開発を行なう企業人、科学的知見をつかって政策決定している行政関係者など、科学がわたしたちの生活のすみずみに浸透している今、誰もが科学に関わる当事者といえます。私たちの共有財産である科学にさまざまな形で関わる人が、それぞれの立場から語り、実践する場が必要です。

誰もが主役になれるまちづくりは、科学コミュニティづくりにも通じる

これもまちづくりと同じです。かつてまちづくりは行政の役割とされ、市民は一方的なサービスの受け手でした。しかし、行政主導の画一的なまちづくりだけでは、複雑化する課題に対応したり、多様化する社会のニーズに応えたりすることはなかなか難しく、従来のやり方は成り立たなくなってきました。そこで、地域の事情や特性に合わせて、地域のことを一番よく知っている住民が主役となり、関係者がそれぞれの知恵や力を持ち寄って「自分たちのまちは自分たちでつくる」を可能にする環境や仕組みを獲得してきた今です。

ですから、本当の意味で「日本の科学をもっと元気に!」を実現するためには、純粋な科学の探求だけでなく、生活としての科学、政策としての科学、文化としての科学など、さまざまな視点から科学の価値やあり方を考えることが必要であり、日本版AAASはそうした対話・実戦の受け皿として新しい科学コミュニティを作ろうとしています。

科学者だけでなく、科学にさまざまな形で関わる人、関わりたいと思っている人に気軽に参加してもらいたいと考えています。「日本の科学をもっと元気に!」を実現するためには、一人ひとりができることから始めることが大切です。私たちは、個性豊かなメンバーとともに未来を向いて活動しています。同じ思いを持つ皆さんの参加を、心から歓迎します。

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【委員プロファイリング・1】自分自身の研究を超えて、科学を守るために/坂内博子氏インタビュー https://jaas.group/memberprof-hirokobannai/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=memberprof-hirokobannai Fri, 05 Feb 2021 06:29:43 +0000 https://jaas.group/?p=4259 日本版AAAS設立準備委員会のメンバーがどのような問題意識や思いを持って活動しているのかを紹介するインタビューシリーズです。第1弾は設立戦略チームで活躍する、早稲田大学先進理工学部、電気・情報生命工学科 教授の坂内博子(ばんない・ひろこ)さんをご紹介します。


坂内博子(ばんない・ひろこ)
日本版AAAS設立準備委員会 委員(設立戦略チーム)
早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授

医者を志すも、解剖が怖いという理由から断念。東京大学理学部で動物学を学び、生物物理学の研究で学位を取得後、脳科学に転向。在外研究先のパリ高等師範学校にて、脳の細胞で分子1個の動きを調べる方法を確立する。JSPS特別研究員、理研基礎科学特別研究員、名古屋大学特任講師、 JST さきがけ 「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」専任研究員、慶應義塾大学医学部特任講師を経て現職。好きな本:推理小説、星の王子さま。

持続可能な研究システム実現へ−分野を超えた議論の受け皿としての日本版AAAS

日本版AAAS設立準備委員会に参加しようと決めた背景には、個人的な問題意識がありました。科学や研究にまつわるいろいろな問題の中には、各分野の学協会でこれまで死ぬほど議論されているにもかかわらず、いまだに解決策がない問題がいくつもあります。そういった問題を一度に解決できる方法はないのか、と常々考えていました。学協会単位ではできないこと、たとえば政治や省庁の関係者と共に制度を実際に動かすというようなことが、日本版AAASのような組織ならば実現できるのではないかと思ったのです。

私自身の問題意識は2つあります。1つは若手研究者のキャリアパスです。長く議論されている研究力低下の問題の根本には、持続可能な研究を進める体制が日本に整っていないことがあります。トップレベルの研究者は雑務に追われ、若い世代はいい研究をしていても不安定な任期付き雇用しかなくて先が見えない。その姿を見た学生は、研究の道に進むのを諦めてしまう。この悪循環を変えたいのです。もう1つは研究界で起こっているハラスメントの問題です。こういった問題は、大学や学協会という組織を超えて分野横断的に解決策を見出す必要があり、日本版AAASはその受け皿として機能すると思います。

「研究の当事者」を市民まで拡大する

私たちが目指す組織の今までにない特徴は、これまで研究の中心的な当事者であった研究者以外の世の中の考え方をも取り込んでいこうというところです。今は、学術に関する諸問題について、TwitterなどのSNSに参加すれば、研究者と一般の人がハッシュタグで繋がり、フラットに議論できる時代です。研究者以外の人々もアカデミアの問題に対して「こうあるべき」という意見を持っています。そして、政治家、行政に関わる人など科学技術政策を担う人々は、研究者の声だけでなく広く一般の人の声も聞かねばならない存在です。

日本の研究者は、今まで、自分たちの大切な問題を世間に問いかけ、動かす活動はできていませんでした。例えば、ゲノム編集の是非、新しい医療、食べ物や健康に関する問題など、市民の生活に関わる科学技術問題を、誰もが当事者として議論できるような社会を作れたら素晴らしい。そういう社会で研究者の役割は、市民に十分判断に足る情報を提供し、市民からフィードバックを受けるということでしょう。それができる組織にしたいのです。

若手研究者の自発的活動や、プライベートでも様々な市民活動に関わっている

もちろん、日本学術会議や各学協会など、科学技術政策を当事者が議論するチャンネルはこれまでにもいろいろありました。しかし、そこでの現状は、それぞれの組織・分野が今、抱えている問題でいっぱいいっぱいです。本質的で重要だけれども議論に時間がかかる長期的な問題は取り上げるに至っていないのです。たとえば若手研究者について、大学院生への支援を制度としてどうするか、議論が進んでいます。しかし、入り口の議論をしただけでは、大学院生の未来への出口となるアカデミック・ポジションや民間への就職先自体が足りない問題は解決しません。ハラスメント対策やダイバーシティの問題も、既存の伝統的機関で政策提言を出そうとすると、周辺のいろいろな関係者に様々な忖度が必要で、本来の理想や本音を語りづらい。他の機関が掘り下げられないそういった問題を取り上げるような機関を作りたいのです。

日本版AAASは、これまでのしがらみを超えて、現実にこだわるだけというような限界を設けずに理想論を作る場、その理想に近づくために努力する場でありたいと思っています。

生物がそこに「ある」ことの不思議

私自身は研究者として、脳の情報伝達の基盤となる神経シナプスの仕組み、その中でもシナプスの物理化学的性質を研究しています。分子が何個集まっていたら情報伝達がうまくいくのか、シナプス伝達に必要な受容体の分子がどのような仕組みでシナプスの場所に集まっているのか、ということを研究しています。

生物がそこに「ある」というとき、物体と決定的に違うのは、存在するために常にその中身、つまり細胞や分子の入れ替えが起きていることなのです。棚にりんごを10個飾っている状態を維持するためには、腐ったりんごを新しいものに入れ替えていけなければならないのと同じように、私たちの脳の中のシナプスの受容体分子には、誰もコントロールしていないのに常に入れ替えが起きています。ミクロなものは入れ替わっているのにもかかわらず、私たちは10年前のことも覚えていられる。それってすごく不思議ですね。そういう生きものの仕組みを知りたいと思って研究をしています。

私が所属している日本神経科学会は市民へのアウトリーチ活動にとても積極的で、私自身もこれまでに「脳科学の達人」、「ガチ議論」、「大ランチョン討論」といった科学を伝えるイベントや研究環境改善に関する様々な活動に参加してきました。去年は、「脳科学弁当」を企画して話題になったんですよ。「伊達巻って海馬に似てるよね?」っていうノリから始まり、脳の部位を表現したお弁当を若い先生たちと作ったんです。「脂質二重層ご飯!」、「鮭、錦糸卵、鮭はリピッドバイレイヤー(脂質二重層)で、そこにチャネルが埋まってて…」、「イクラはコレステロール多いからラフトね!」、みたいにやりたい放題やりました(笑)。Twitterで発信したら「脳科学者がガチでつくった脳科学弁当」とまとめサイトで取り上げられました。「脳科学弁当」はアウトリーチの一つの例ですが、日本版AAASが法人化されて軌道に乗ったら、一般の方々にどうアプローチしたら科学の面白さが分かってもらえるのかを追求して、それをもとに科学の現状を伝えていく活動をしていきたいです。

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